大きさが5mm以下のプラスチックのかけらをマイクロプラスチック(Microplastics: MPs)と呼びます。私たちが普段使っている、ペットボトルやビニール袋などのプラスチックでできた製品が、ポイ捨てなどにより海や川に流れ、それが太陽の光や海の波で削れることで少しずつ時間をかけて小さくなり、やがてはマイクロプラスチックになります。
マイクロプラスチックは海を汚し、海の生き物の暮らす環境に影響を及ぼします。そもそもプラスチックごみは自然のものではないので、土に還ったり分解されたりすることはなく、だれかが拾うまでずっとその場所にあります。特に、目視で確認できない大きさのマイクロプラスチックをすべて回収するのは至難の業です。長い間海岸や海のなかにプラスチックが存在すると、プラスチックを好む有害化学物質がくっつきます。そうすることで、マイクロプラスチックそのものが有害な存在となってしまいます。海の生き物たちがそれを口に含んでしまったらどうなるでしょうか。魚たちだけでなく、間接的に人間に影響を与えるかもしれません。
マイクロプラスチックの問題はそれだけではありません。まわりに生えている木々にも絡んで、木々の成長や健康を阻害します。嵐が来た時に木が倒れやすくなる原因にもなり、海の近くで生活している人にも被害を及ぼします。いま、マイクロプラスチックは地球環境を揺るがす大きな問題となっています。
HORIBAグループで分析・サービス事業を担う株式会社堀場テクノサービスでは、子どもたちが自分ごととしてマイクロプラスチック問題を理解することを目的とし、近隣の浜辺や川辺から採取した砂に含まれるマイクロプラスチックを可視化できる簡易教育用キット「ぷらウォッチ」を2022年に開発しました。HORIBAグループでは、この「ぷらウォッチ」を使って、マイクロプラスチックの観察授業を実施しています。2024年2月には、HORIBAの社員たちが沖縄県へ出向き、美しい海に囲まれて育つ沖縄県の子どもたちに授業を行いました。
沖縄県で出前授業を行うにあたり、琉球大学 教育学部 岡本教授にお力添えをいただきました。岡本教授に、ぷらウォッチとの出会いや、ぷらウォッチを使った研究・活動などについてお聞きしました。
琉球大学 教育学部 学校教育教員養成課程 技術教育専修
岡本 牧子(おかもと まきこ)教授
岡本教授:HORIBAと一緒に行っていた別プロジェクトのなかで、他の先生から「ぷらウォッチ」について話を聞き、存在を知りました。ぷらウォッチに使用されているレーザー誘起蛍光法は以前から知っていたのですが、それを教育に利用できるのか、と初めは驚きました。そして、ぷらウォッチが単なる子ども向けの教材ではなく、分析計測機器メーカーが開発した技術力のある製品であることや、教材のコンセプトに魅力を感じました。沖縄県では海洋教育に力をいれており、海のマイクロプラスチックに関する授業や、ビーチクリーンなどの活動がすでに行われています。しかし、それだけではなかなかインパクトを得られる授業を行うことができておらず、これでいいのかなと感じていたところでした。「ぷらウォッチ」を活用した授業を行えば、より意味のある授業になると思い、ぜひこの教材を沖縄に広めていきたいと考えました。
また、単なる授業づくりではなく、技術教育※を行う立場として、ぷらウォッチという教材に込められた、分析計測機器メーカーの技術力も子どもたちに知ってほしいというおもいもありました。
※技術教育:生活や生産活動に必要な技術や知識を習得させる教育。
2024年2月17日・18日にANA ARENA 浦添(浦添市民体育館)にて開催された「沖縄青少年科学作品展」で、岡本教授のブース内に堀場テクノサービスも出展。ぷらウォッチを使った、マイクロプラスチック観察の出前授業を行いました。また2月20日には、竹富町立西表小中学校にて岡本教授と一緒に出前授業を行いました。
岡本教授:いずれの出前授業についても共通しているのは、ぷらウォッチがしっかりとしたコンセプトと構造、技術力を持った教材であるということを実際に体験してもらい、その良さが伝わる授業になったということです。特に科学作品展では1対1で子どもたちの年齢に合わせた説明で染色作業の授業を行うことができました。また、西表小中学校では、授業の半分をHORIBAに入ってもらい、ぷらウォッチのしくみを子どもたちに説明してもらいました。難しい話だったかもしれないですが、かみくだいて子どもたちにわかりやすく説明してくださったので子どもたちにしっかり伝わったのではないかと思います。
(沖縄青少年科学作品展のようす)
西表小中学校では昨年、岡本教授がぷらウォッチを使った授業をされており、子どもたちにとってぷらウォッチを使うのは今年で2回目です。前回使用時から、よりマイクロプラスチックが見やすく改良されたぷらウォッチにとても喜んでくれました。
岡本教授:実際にぷらウォッチを開発したHORIBAのエンジニアが授業を行ったことで、授業を通してエンジニアという職業に興味を持ってくれた子どもがおり、子どもたちにとって貴重な体験になったと思います。
(竹富町立西表小中学校での出前授業のようす)
私たちも、子どもたちから「(ぷらウォッチは)すばらしい発明だと思った!」と目の前で感想をいただけたことがとても励みになりました。
先生のお話を聞いていると、子どもたちへの技術教育のおもいが伝わってきます。先生のふだんの研究内容やぷらウォッチとのかかわりについてお聞きしました。
岡本教授:大学では技術教育の教員養成として、技術科の教員をめざす学生たちに機械工学や金属加工、ものづくりの実技や授業づくりを教えています。研究についてはいくつかありますが、琉球紙と呼ばれる、沖縄独自の伝統的な紙づくりについて研究しています。琉球紙の原料であるアオガンピと呼ばれる植物は、原料としての栽培が難しいのですが、その栽培も含めてどうやって学校現場に取り入れるかということが課題になっています。その解決方法の一つとして、学校の給食室から出てくる生ごみを微生物分解させ、液化させた「液肥」を使用することに注目しています。実は、処理機のなかにある微生物を住まわせている基材がプラスチックでできており、処理機のメーカーと生分解性プラスチックについて研究しています。液肥のなかに生分解性プラスチックが含まれていないか、また、分解されずに出てきてしまったものが土壌に撒かれてしまったときにどのように分解されていくのか、経過を見ていきたいと思っており、その、土の中のプラスチックを見るための可視化装置としてぷらウォッチを有効に活用できないかということを考えています。さらにそれをどのように授業に展開をしていくかということを研究しています。
海岸の砂だけでなく、沖縄の伝統的なものづくりにも、ぷらウォッチの活躍の場が広がりそうですね。
今後の先生ご自身の活動の展望や、HORIBAに期待することを教えていただきました。
岡本先生:今回の出前授業のコラボレーションをきっかけに、沖縄の学校の先生や子どもたちにぷらウォッチを知っていただくことができ、広めていく機会となりました。さっそく県内の学校現場で使っていきたいと思います。一方で、授業を行うには染色作業で使用した廃液をどうやって処理するかという問題もあります。処理の方法を教員に共有することや、処理の可能な施設の有無を確認するなど、大学としてどうやって関わっていけるか考えていきたいと思います。また、ぷらウォッチを使い、どのように授業で活用していくかという点についても先生方に提案していきたいと思います。HORIBAはしっかりとした技術の力のある企業なので、今後とも沖縄の教育現場にもお力添えいただきたいと思います。
海のごみをはじめ、マイクロプラスチックの問題はよく耳にしますが、日ごろ海のない京都市内で生活していると、なかなか実感がわかなかったHORIBAの社員。実際に沖縄へ行き、自分たちの目で海岸を見て、改めていま起こっているマイクロプラスチック問題の深刻さに衝撃を受けました。まだこの問題を知らない人や、「本当に砂にマイクロプラスチックが含まれているの?」と思った方には、ぜひ、ぷらウォッチを通して知っていただきたいと思います。
ぷらウォッチを使って身近な場所にある砂を観察すると、目に見えないマイクロプラスチックを自分で発見することができます。そこにマイクロプラスチックが含まれているかどうかが「わかる」と、次に自分たちがどんな行動をとっていくことができるかを考えることができます。遠く離れた海だけで起こっていることではなく、自分たちの身近なところから、環境問題を考えていくきっかけとして、ぷらウォッチの活躍の場はまだまだ広がります。
観察から行動へ:マイクロプラスチックの蛍光可視化を通じた環境教育の強化(琉球大学学術リポジトリ)(外部リンク)
大阪科学技術館では、ぷらウォッチのしくみを使った、マイクロプラスチックの観察ができる展示を常設しています。ぜひお越しください。
測っちゃいました Vol.3 マイクロプラスチックの測定① - HORIBA
測っちゃいました Vol.4 マイクロプラスチックの測定② - HORIBA
(インタビュー実施:2024年2月20日)