ある物体が熱い・冷たいという主観的な感覚を、その度合いを含め客観的・定量的に表して人に伝えたい、という要求は古くからありました。
現在用いられている多くの温度計は、物体の持つ熱エネルギーがその物体に接する他の物体に伝わる性質を利用したもので、接触型温度計とよばれています。
接触型温度計の原形を作ったのは、イタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイで、この温度計は温度変化による空気の膨張・収縮を利用したものでした。その後、さまざまな改良が行われ、現在はアルコールや水銀を用いた温度計が一般的に知られていますが、その測定原理は大きくは変わっていません。
ところが、1800年にイギリスの天文学者ハーシェルによって赤外線が発見され、その後の研究で、次第に高性能の赤外線センサがつくられるようになりました。
そしてこれらの赤外線センサーを利用して、従来の温度計とはまったく異なる『放射温度計』が誕生したのです。
放射温度計は、被測定物の表面から放出される赤外線放射エネルギーを赤外線センサーを用いて計測し、被測定物の温度をはかります。このため、被測定物に接触させずに、その物体の表面温度をはかることができます。
例えば寒さや暑さが厳しいときに気温を調べてみたり、体調が悪いときに体温計を使ったりと、私たちは日常生活で何気なく温度を測定します。
では、温度とはいったいどういうものなのでしょうか?
温度計はどのような変遷をたどり、また、温度の単位はどのようにして決められたのでしょうか?
1603年にガリレオ・ガリレイが作った温度計は、気体である空気の膨張・収縮を利用したものでした。しかし、その空気を封じ込めている水が外気にさらされた構造だったため、温度を示す水面の高さが気圧の影響を受けてしまいました。その後、液体を管に封じ込めた温度計が開発され、気圧の影響を受けずに温度変化を観察することができるようになりました。
このようにして温度計の精度が良くなると、管の中の液面の上下を観察するだけでなく、管に規則正しい目盛りをつけて、定量的に測定しようとする人が現れました。
1701年、イギリスの物理学者アイザック・ニュートンは、融けかけた氷に温度計を差し込んたときの温度計の液面の位置をゼロとし、人の体温を測ったときの位置を12として、その間を12等分することを提案しました。当時の温度計は水やアルコールの膨張・収縮を利用したもので、当然、測定範囲も精度もかなり限られていました。
全ての物質は、原子や分子によって構成されています。これらの原子や分子は、その物質の温度が高いときには活発に、低いときには不活発に、絶えず運動しています。この原子や分子の運動エネルギーの平均値を熱エネルギーといいます。
温度とは、物質の持つ熱エネルギーを数値化して表したものなのです。
熱の伝わり方には、伝導・対流・放射という3種類の形態があります。
「伝導」とは、互いに接触した温度の高い物体から低い物体へと熱エネルギーが移動することです。伝導によって、高温の物体と低温の物体の温度差は次第に小さくなり、最終的に温度が等しくなって熱エネルギーの移動は止まります。
接触式の温度計では、このような伝導の性質を利用して対象物体とセンサーが熱平衝 に達した状態で温度を測定しています。
「対流」は、水や空気などの流体が暖められると軽くなって上昇し、冷やされると重くなって下降することによって循環することです。この循環によって熱が伝えられます。
「放射」とは、その物質が持つ熱エネルギーを電磁波(可視光線や赤外線など)という形態で周囲に放出する現象のことですが、これだけではピンとこないかもしれませんね。身の回りでは、たとえばストーブに手を近づけるだけで、直接手を触れなくても暖かく感じることができますが、これは手がストーブからの放射エネルギーを感じ取ったからです。この場合は、手が赤外線センサの役割をしているわけです。これと同じ原理で、物体から放射される赤外線エネルギー量を赤外線センサーが検知し、その赤外線の量から物体の温度を測定するのが放射温度計です。
1720年、ドイツの物理学者ファーレンハイトは、水やアルコールの代わりに水銀を利用した温度計を開発しました。水銀は水の氷点より低い温度でも、また、沸点より高い温度でも液体のままであり、膨張・収縮の仕方も温度にかかわらずほとんど一定です。このため、ファーレンハイトの温度計は測定範囲も精度も格段に改善されたものとなりました。
ファーレンハイトは、彼の実験室で得られた最低温度(これは氷と食塩水を混ぜて得られた温度でした)をゼロとし、水の氷点を32度、沸点を212度とした目盛を提案しました。これは「ファーレンハイト目盛 」として現在でもアメリカ、カナダなどで日常的に用いられ、単位°F(華氏)で表されています。
1742年、スウェーデンの天文学者セルシウスは水の沸点をゼロとし、水の氷点を100度とする目盛を提案しました。その後、水の氷点を0度、沸点を100度に修正されましたが、水が液体の状態であるときの温度範囲を100等分するので、ラテン語で“100歩”を意味する言葉から「センチグレード目盛」と名付けられました。現在も一般的にはそう呼ばれていますが、その後の国際会議で正式名称は「セルシウス目盛 」と決められました。この目盛は現在、日本を含む多くの国々で用いられ、単位°C(摂氏)で表されています。
これらの単位のほか、物理学の分野では、絶対温度 (単位K)が用いられています。これは1848年、イギリスの物理学者ケルビンが提唱した温度の単位で、熱力学温度と呼ばれています。絶対温度は物理的現象を式で表すのに大変適しています。
絶対温度では、水の氷点は0°C=273.15Kとなります。