空気は、赤外線の放射エネルギー量が非常に小さい(放射率が小さい)ので、測定することはできません。これは同時に、空気は赤外線の吸収率が小さい、つまり空気が赤外線をほとんど吸収しないということでもあります。赤外線にこのような性質があるおかげで、空気中の別に置かれた対象物から放射された赤外線を透過することによって、その対象物の温度を測定することができるのです。キルヒホッフの法則を思い出していただけたでしょうか。
ところで、晴れた空に放射温度計を向けて測定するとどうなるのでしょうか?
この場合は、下限の測定レンジオーバーになります。
理由は、宇宙空間から放射される非常にわずかな赤外線エネルギー(一部は大気中で吸収されます)と大気層からのわずかな放射エネルギーを測定していることになるからです。
次のような場合は表面と中心部の温度差が生じます。
また、表面から白い湯気が発生している状態では、湯気による赤外線の散乱の影響で測定誤差が大きくなります。
「色の違うものでも測れる?」でも触れましたが、放射温度計は可視光領域ではなく赤外線領域の波長の光を測定していますから、可視光線領域で透明か不透明かということは、放射温度計で測定できるか否かには関係ありません。
そこで、問題はそのプラスチックが赤外線領域で透明か不透明かによることになります。不透明であれば吸収率が大きく、放射率も大きい(キルヒホッフの法則)ため測定が可能です。
一般にプラスチックは非常に種類が多く、放射率もさまざまです。また、薄い板状のものやフィルム状のプラスチックは放射率が低く、中には測定できないものがあります(ポリエチレンやポリプロピレンなど)。しかし、同じ種類のプラスチックでも、ブロックや厚い板状のプラスチックは放射率が高く、測定が可能です。
放射温度計では、被測定物からの赤外線を遮る物質がない限り、どこまででも離れて測定することができます。ただし、放射温度計の標的サイズの大きさは、測定対象物までの距離(測定距離)によって変わります。離れれば離れるほど視野が広がって、広い範囲の温度を測定することになるので、被測定物の周囲にまで視野が広がってしまうこともあります。したがって、離れても、被測定物が放射温度計の標的サイズより大きい場合であれば、正確に測定できます。
放射温度計は原理的に物体の表面の温度を測定するので、表面の温度を測定する場合に限って接触式との比較をしてみます。
接触式の温度計では、接触面積による誤差(姿勢誤差)が大きくなる場合があります。また、紙などの熱容量が小さい物質など、接触によって温度が変化するようなものに対しては正しい値を得ることは困難です。また、加熱・冷却中の物体など、接触させている温度センサーと物体との熱平衡に達するまでの時間が十分に確保できない場合も正しい値を得ることが困難です。
非接触の放射温度計では赤外線エネルギーを高速で測定するため、熱容量が小さい物質や温度変化中の物質も精度よく測定することができます。
接触式温度計 | 放射温度計 | |
---|---|---|
ゴム | △ | ○ |
水 | ○ | ○ (「水の温度は測定できる? 」) |
フィルム | △ | △ |
プラスチック | △ | ○ |
食品(表面) | - | ○ |
食品(内部) | ○ | - |
電子回路 | △ | ○ |
金属 | ○ | ○ ただし、黒体スプレー・黒体テープ使用 (「黒体スプレー、黒体テープを利用する 」) |