赤外線は電波や可視光線、紫外線と同様に電磁波の1種です。
可視光線の長波長側(波長約0.78μm)より大きい波長を持ち、肉眼では見えません。波長の上限は文献などによって異なり、明確な定義はありませんが、約1mm程度とされ、一部マイクロ波の領域と重なります。
赤外線は1800年、イギリスのハーシェルによって発見されました。
彼は、天王星を発見した天文学者として有名ですが、プリズム分光計で太陽光を観測していた時に、太陽スペクトルの赤色部の外側(長波長側)の何も見えない部分の温度が周りの温度よりも高いことに気づいたのです。彼は、この部分には目に見えない光(熱線)が存在すると考えました。可視光線よりも長波長側にある、この目に見えない光のことを「赤外線」といいます。
1835年には、フランスの物理学者アンペールによって赤外線が可視光線と同じように干渉や屈折などの性質をもつ光であることが、明らかにされました。
ハーシェルが赤外線の観測に用いたのは、液体温度計でした。これは赤外線センサとしては低感度で、太陽光の強力な赤外線以外の観測は不可能でした。
1821年、ドイツの物理学者ゼーベックが、2種類の異なる金属を接続して、一方の端のみを加熱または冷却して他方の端と温度に差があるようにすると、電流が流れる現象(熱起電力 )を発見しました。現在、工業における温度計測に最も多く利用されている熱電対 はこの現象を応用した温度検知器で、わずかな温度差でも検知することができます。
1840年に熱電対を直列につないだ熱電対列(サーモパイル)が発明されると、これは赤外線の観測に応用され、赤外線の研究がさかんに行われるようになりました。そして、これらの研究によって、物体の温度と放射エネルギーとの関係が次第に明らかになっていきました。
1860年、ドイツの物理学者キルヒホッフは、放射エネルギーを吸収しやすい物体は、同時に放射もしやすいという現象に注目し、物体の吸収率と放射率(「放射率とは-黒体との比率 」)との関係に関して「物体が放出する放射エネルギーの量とその物体の吸収能の比は物質の性質には無関係で、その物体の温度と放射の波長のみで決まる」という法則(キルヒホッフの法則)を発見しました。彼がこの法則に基づいて唱えた、完全黒体(全ての波長の放射を完全に吸収する物体)という概念は、後続の熱放射研究の道を開きました。
1884年、オーストリアの理論物理学者ボルツマンは、「黒体から放射される全エネルギー量はその黒体の絶対温度の4乗に比例する」という法則(ステファン・ボルツマンの法則)を熱力学の理論から導き出しました。
1900年、ドイツの理論物理学者プランクは、黒体が放出する放射エネルギー密度を、放射の波長とその黒体の絶対温度で表す式を導き出しました。これはプランクの放射則 として知られています。
放射温度計には「赤外線センサー」が不可欠です。
「赤外線センサー」は、赤外線を感知するセンサのことで、動作原理によって「熱型」と「量子型」の2種類があります。
赤外線を受けることによって生じるセンサー素子の温度変化を、抵抗の変化あるいは熱起電力 や焦電効果などの物理的現象の変化としてとらえ、電気信号として出力します。赤外線の微弱な熱エネルギーを感度よくとらえ、接触型の温度センサと基本原理が同じであるものが多く、素子の冷却が不要で安価であるのが特徴です。
赤外線を受けるセンサー素子が赤外線の光量子(フォトン)によって直接励起され、この励起によって生じるセンサー素子の抵抗や電圧などの電気的な性質または量の変化を電気信号として出力します。赤外線に対する感度は「熱型」に比べてさらに高いのですが、高感度を得るためには素子の冷却が必要なものが多く、一般に装置として大型で高価になります。
放射温度計には、利用する赤外線の波長領域によって、全放射温度計と単色放射温度計、部分放射温度計があります。
全放射型温度計は、赤外線の波長領域のほとんど全てを利用するもので、ステファン・ボルツマンの法則に基づいています。
ステファン・ボルツマンの法則は、物体がその絶対温度に応じた可視光線や赤外線を熱エネルギーとして放射していることに関係するもので、「黒体から放射される全エネルギー量は、黒体の絶対温度の4乗に比例する」ことが述べられています。
一方、単色放射温度計、部分放射温度計は、特定の波長、あるいは特定の波長域の赤外線を利用します。被測定物の放射特性 (「被測定物の放射特性 」)や測定環境を考慮して、適切な波長あるいは波長領域を選択的に利用することで、より精度の高い温度測定が可能となります。
プランクの放射則 に基づいて、物体の温度と放射エネルギーの関係をグラフにすると図1のようになります。この図から、物体の温度が高いほど短波長の光が多く放射され、温度が低いほど長波長の光が多く放射されることがわかります。つまり、高温の物体を測定する場合は短い波長を、低温の場合は長い波長を利用すると、より精度のよい測定ができるのです。
また、大気中に含まれている水蒸気(H2O)や炭酸ガス(CO2)は、特定の波長の赤外線を強く吸収します。このため、大気中で全放射温度計による測定を行うと、被測定物の放射が正しく温度計に伝わらず、精度の高い温度測定は難しくなってしまいます。
しかし、8~14μmの波長領域には、大気の影響による吸収はほとんどありません(図2)。したがって、この領域の波長を利用することによって、大気の影響を受けずに被測定物の温度を測定することができます。この8~14μmの波長領域は「大気の窓」と呼ばれ、放射温度計の高精度測定に重要な意味を持っています。