図6は実際の赤外線ガス分析計の構造例です。表1の機能を持つ主要部品を組み合わせて構成されています。
図6:赤外線ガス分析計の構造
1. 赤外線光源 | 中赤外線域の2.5~25μmの波長を含む赤外線を発光する |
2. 回転セクター | 赤外線光源から試料セル・比較セルへ供給される赤外線を 一定周期で断続する(変調機構の一種) |
3. 試料セル・比較セル | 測定成分ガスを含んだ試料ガスを流すガスセル(試料セル)、 比較ガスを流すもしくは封入されたガスセル(比較セル)で、 赤外線の光路となる |
4. 光学フィルター | 多層膜フィルターで、測定成分ガスの特定吸収波長の赤外線だけを透過する |
5. 測定成分用主検出器 | センサーを含む検出機構で、測定成分ガスの赤外線吸収量の変化を 検出する |
6. 干渉成分用補償検出器 | センサーを含む検出機構で、測定成分ガス以外の干渉成分ガスを 補正するために、干渉成分ガスの赤外線吸収量の変化を検出する |
7. 信号処理部 | 5と6の検出信号を信号処理し、測定成分ガスの濃度を算出する |
写真1は主要部品(表1)で構成された赤外線ガス分析計の一例です。
HORIBAはいろいろな市場ニーズに迅速にこたえるため、赤外線ガス分析計の重要な部品である、赤外線光源・試料セル・比較セル・光学フィルター・検出器を内製化しています。
実際の赤外線ガス分析計の動作原理を説明します。赤外線ガス分析計の基本構造(図4)に比較セル、回転セクター、ニューマチック検出器(図5)を組み込み、主要な3つの機能(表2)が動作することで、測定成分ガス濃度の信号を得ることができます。 (図6と写真1)
(1)測定成分ガス検出機能 | 試料ガス中の測定成分ガス濃度に応じた赤外線吸収量を検出する |
(2)変調機能 | 測定精度を向上のため、赤外光源からの赤外線を一定周期で |
(3)干渉成分ガス補償機能 | 測定成分ガスへの干渉成分ガス影響を補正するために、 干渉成分ガス濃度に応じた赤外線吸収量を検出する |
ここでは試料ガスを排ガスとし、排ガス中のCOを測定する場合の動作原理を説明します。
2つのガスセル(試料セル・比較セル)を使用し、それぞれのガスセルでNDIRの測定原理に基づき発生する赤外線吸収量の差を、ニューマチック検出器内のコンデンサーマイクロホンにより圧力差として検出し、試料ガス中の測定成分ガス濃度を検出します。
測定成分ガスの濃度測定用の検出器は、測定成分用主検出器と呼ばれます。(図6)
試料セル・比較セルとコンデンサーマイクロホンの機能・動作(図7)
図7:分析計の基本的な動作原理
ニューマチック検出器(図5)内部には、コンデンサーマイクロホンのダイヤフラムで区切られた両室に、測定成分ガスであるCOが封入されています。また、検出器内のコンデンサーマイクロホンのダイヤフラムが両室の圧力差で動き、固定板とでコンデンサを形成しその静電容量が変わることで、その圧力差が電気信号として検出されます。
比較セル中には、赤外線を吸収しないN2などの不活性ガスが封入されています。この比較セルでは赤外線は吸収されず、光学フィルターでCOを吸収する波長の赤外線だけが透過され、そのまま比較セル下の検出器の右室に入ります。
封入されたCOがこれを吸収して熱を発生し、室圧が上がりダイヤフラムを常に一定圧で押します。
一方、試料セル内では排ガス中のCO濃度に応じて、赤外線が吸収されます。吸収された特定波長の赤外線が、光学フィルターで選択透過され、試料セル下の検出器の左室に入り、左室内に封入されたCOで吸収された赤外線量に応じた圧力でダイヤフラムを押します。この際、左右室の圧力差の分だけ、ダイヤフラムが動きます。(動かないか、左室側に動く。圧力としては左室≦右室)。
この圧力差を、排ガス中のCOの赤外線吸収量として電気信号に変換・出力することで、信号処理部によりCOのガス濃度値に換算されます。
コンデンサーマイクロホンは、ダイヤフラムの左右で圧力差が生じ、ダイヤフラムと固定板間の距離が変化した場合、その変化を静電容量の変化としてとらえます。測定成分ガスの濃度変化が少なく、ダイヤフラムの動きが小さくて遅い場合でも、赤外光源からの赤外線を一定周期で断続させることでダイヤフラムを一定周期で振動させ、微小な濃度変化を精度よく測定できます。
回転セクターの機能・動作
図8:回転セクタ―の動作と赤外線供給量の関係
具体的には赤外線光源の下で、回転セクタ―と呼ばれる蝶ネクタイの様な薄板を回転させる機構で、これにより変調動作を行っています。(図8)
この薄板を回転させることで試料セル・比較セルのそれぞれの赤外線光源の赤外線量はともに0~100%まで周期的に連続して変化します。
例えば回転セクタ―が両セルの赤外線光源に完全に重なった場合(回転角:0度)では赤外線が一切出ないため、両室とも赤外線吸収が発生せずコンデンサーマイクロホンのダイヤフラムは膨らみません。逆に一切重ならない場合(回転角:90度)は、赤外線光源より100%の赤外線量が両セルに供給されます。
図9:赤外線ガス分析計の動作と測定成分ガスの濃度信号検出
(1)と(2)を組み合わせる事で試料セルに流れる測定成分ガス(この場合は排ガス中のCO)の濃度に比例したコンデンサーマイクロホンの左右圧力差を検出できます。(図9)
試料ガスに含まれる測定成分以外のガスの中には、測定成分ガスの赤外線吸収波長と重なる波長をもつガスが共存する場合があります。このガスは干渉成分ガスと呼ばれます。 (図10グラフ 測定成分ガスと干渉成分ガスの赤外線吸収波長と吸収量)
干渉成分ガスが共存すると、測定成分用主検出器の出力信号に干渉成分ガスによる赤外線吸収が含まれるため、その影響を取り除く必要があります。この影響除去のため、干渉成分用補償検出器は、試料ガス中の干渉成分ガス濃度に応じた赤外線吸収量を検出します。
干渉成分用補償検出器の機能・動作
図10:干渉補正用検出器と干渉影響補正後の測定成分ガス信号を得るまで
干渉成分用補償検出器は、測定成分用主検出器と同じ赤外線光路・変調機能が動作するように配置されます(図10)。干渉補償用検出器も測定成分用主検出器と同じニューマチック検出器(図5)です。測定成分用主検出器で測定成分ガスと干渉成分ガスにより赤外線吸収された残りの赤外線が、干渉成分用補償検出器に透過されます。この透過された赤外線は干渉補償用検出器内に封入されている干渉影響補正用のガスにより吸収され、コンデンサーマイクロホンで圧力差として検出されます。これにより干渉成分ガスの濃度に応じた補正用信号(B)が検出されます。(図10グラフ 干渉成分ガスの補正用信号)
測定成分用主検出器の出力信号(A)から、干渉成分用補償検出器の出力信号(B)を信号処理部で差し引くことで、干渉影響が補正された測定成分ガスの濃度を得ることができます。