TCSPCは、時間相関単一光子計数(time-correlated single photon counting)を表します。これは、レーザーまたはLEDのようなパルス励起源のタイミングと検出器に単一光子が到着するタイミングから蛍光寿命を測定する方法です。この技術は、励起パルス後の時間tにおける1つの単一光子を検出する確率が時間tにおいて蛍光強度に比例するという事実に基づいています。 比較的高い繰り返しレート(10 kHz~100 MHz)でパルス発生されたレーザーまたはLEDの反復は、次の光子が検出器(すなわちPMT)に到達するときと同期します。減衰を計算するのに十分な統計値を収集できるまで、これらのイベントを記録するために、時間-デジタル変換器または時間-振幅変換器(TAC)の形式のタイミング-電子回路を使用します。その後、減衰を指数関数に当てはめて、寿命の減衰(t)をモデル化します。TCSPCは、通常、ピコ秒からマイクロ秒の時間尺度の蛍光寿命の測定に使用されます。
TCSPCモードを使用すると、わずか1 ms程度の時間間隔で測定を行うことが可能であり、蛍光寿命は反応速度プロセスを知るために有効です。 データの分析には十分な数の光子が必要なことは明らかです。これは、非常に高い繰り返しレートを用いれば向上させることができますが、寿命と時間範囲を考慮する必要があり、試料が完全に減衰するまでは再励起しないようにしなければなりません。
蛍光を測定できるなら、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動:Förster Resonance Energy Transfer)を測定することができます。FRETは、測定技術ではなく測定結果の解釈です。FRETは、ドナー分子の発光がアクセプター分子の吸光と重複するときに生じます。これらの分子は、十分近づいていると双極子間相互作用を経て、エネルギーが移動します。50%のエネルギー移動が発生する距離をフェルスター距離と呼び、この値は一般的に共通FRET対として知られています。アクセプターの存在下でドナー分子の蛍光強度または寿命の変化を測定することにより、FRET効率、さらにはこれら2分子間の距離が得られます。FRETは、蛍光スペクトル(強度)または蛍光寿命を用いて測定することができます。
ドナーのみの発光ピークで測定した強度\(I_D\)I度\(I_{DA}\)(または寿命\(t_{DA}\))、アクセプターの存在を伴うもののドナーを伴わずにドナーの発光ピークで測定した強度\(I_A\)(または寿命\(t_A\))、およびブランク溶液(すなわち、緩衝液のみ)を用いてドナーの発光ピークで測定した強度\(I_B\)(または寿命\(t_B\))などの複数の測定値が必要です。これらから、効率Eをフェルスター距離(\(R_0\))と併せて使用することができ、これにより測定対象のドナー分子とアクセプター分子の間の距離Rを計算します。上図の式を参照してください。
蛍光消光は、蛍光発光の低下、すなわち無輻射減衰速度(knr)の増加を意味します。蛍光消光は、「静的」形態と「動的」形態に分けることができます。その両方で、発光強度は低下しますが、動的消光でのみ蛍光寿命に変化があります。注記:反応速度がシュテルン-フォルマー反応速度に従い、平均寿命が使用される場合、これは強度平均を用いて計算してください。
光退色の効果により、発光する蛍光体の数が効果的に低下する(すなわち、濃度の低下のように作用する)ので測定の実行時間が増加し、発光強度が低下します。寿命は影響を受けません。
時間分解発光スペクトルの測定は、試料の発光スペクトル波長を増加させつつ蛍光減衰を測定する技術です。強度vs.時間vs.波長の3Dプロットが得られます。様々な波長における減衰の代わりに様々な時間におけるスペクトルの方向にある3Dデータセットを見ることによって、時間分解発光スペクトルを測定することができます。試料が、重複したスペクトルを持ち寿命は異なっている複数の蛍光体を含む場合、これらの要素の個々のスペクトルをTRESで分離することができます。 例えば、2-ナフトールは、励起状態でイオン化されて2-ナフトレートになります(Koti, 2001)。定常状態の発光スペクトルは2つのピークを示し、両種が存在することを示しています。発光スペクトルの波長を増加させつつ寿命を測定すると、各発光ピークで異なる減衰速度を示します。減衰を当てはめてみることで、要素の寿命および/または振幅が、異なる発光波長でどのように変化するかが分かります。 2-ナフトールでは、354 nmでの2-ナフトールの発光ピークは、約414 nmに発光ピークがある2-ナフトレートとは異なる寿命です。イオン化2-ナフトールと非イオン化2-ナフトールの2-状態モデルが、TRESに明確に示されます。2つの時定数は、2-ナフトール(357 nmにおいて3.4 ns)と2-ナフトレート(414 nmにおいて9.4 ns)の異なる減衰時間を示しています。下記のデータは、FluoroHub TCSPCエレクトロニクスと1 MHzで動作するNanoLED-280励起源を装備したFluoroMax-4で測定したものです。 TRESのもう1つの用途として、溶媒再配向の時定数の測定があります(Horng, 1995)。単一蛍光体と経時的な発光スペクトルの移行の様子を見ることで、ピークエネルギーvs.時間のプロットを用いることにより時定数が得られます。この場合のスペクトルの移行は、蛍光体の励起状態の双極子モーメントに応じて溶媒分子がその双極子モーメントを再配向することによるものです。経時的な発光スペクトルのピークエネルギーを用いて、溶媒分子の再配向時定数を得ることができます(Horng, 1995)。
これには試料に応じた2つの方法があります。TCSPC測定は、結合プロセス中に寿命が変化する場合に使用できます。結合が回転相関時間に影響を及ぼすので、時間分解異方性も評価できます。これは分子の有効サイズの変化によるため、回転相関時間は分子の有効体積に比例します。
遅延時間は、ランプの閃光後にりん光スペクトルを測定するために使用されます。遅延時間が短い場合には、この試料内のペプチドからの寿命の短い蛍光ならびにテルビウムの寿命の長いりん光がともに重なって観測されます。 遅延を変化させることで、同一試料内で寿命の長いりん光を持つ成分を蛍光から分離して選択的に検出することができます。 ガラス材のランタニドの構成は、時間分解りん光減衰を用いて調べることができます。ここに、この手法を用いた様々なガラスのエルビウムの内容に関する調査データがあります。エルビウムの寿命は、ガラスの種類とガラスの製造プロセスによって異なります。
ボックスカー技法、つまりボックスカー平均化は、信号の減衰時間全体にわたり積算窓を設け、その信号値を積算することにより、りん光または寿命の長い蛍光減衰を測定する手法です。 キセノンフラッシュランプのようなパルス光源が光り、パルスの後(理想的には、ランプの閃光完了の時点)の遅延が設定されます。検出器は、繰り返し積算窓を測定し、閃光後のその窓における強度の統計的平均を得ます。そして、積算窓が開いている時間を増やします。このような方法で、減衰を生成して指数関数形減衰に当てはめることで、減衰速度の逆数により寿命が得られます。ボックスカー技法は、寿命の長い減衰や弱い放射体では有効です。しかし、キセノンパルスの幅によっては、可変光源を使用して比較的低コストの方法で10 µsから数秒の間の寿命を測定できます。
蛍光のアップコンバージョンは2光子プロセスであって、試料は近赤外波長領域に同時に発生する2つの同時性光子により励起され、蛍光がスペクトルの可視領域の高いエネルギー(低い波長)で発光されます。
必要な励起パワーは、対象の試料に依存しますが、アップコンバージョンは通常、レーザーのような高い光子束励起源を必要とします。このため、標準的なTCSPC用光源では、アップコンバージョン測定を実施するのに必要な光子束を得ることができません。980 nmを出力するレーザーを直接取り付けて、アップコンバージョンスペクトル、寿命、またさらには量子収率の測定用に試料を直接励起することができます。効率的なNIR出力を備えたQスイッチドOPOレーザーも、蛍光アップコンバージョンの測定に使用できます。
NIRの光を吸光し、可視範囲で発光する分子が測定できます。NIR光を利用するのは、高エネルギーの紫外線励起源は光退色し、または生体試料の光損傷をもたらすためです。NIR源は、低エネルギーで励起するため、通常このような問題はありません。蛍光アップコンバージョンを示す分子には、ランタニド、半導体ナノ粒子および量子ドットがあります。同じ980 nm DPSSレーザーがTTLパルスによりパルス状に発せられ、TCSPCのMCS法によるPLアップコンバージョン寿命測定が可能になります。
蛍光(およびりん光)の用途は広範囲にわたりますが、この現象の使用が優れている2つの研究分野があります。
構造/形態 | サイズ/移動性 | 機能 |
モニター | モニター | モニター |
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以下の技法を使用
| 以下の技法を使用
| 以下の技法を使用
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半導体 | ガラス&ポリマー | 量子ドットを含むナノ粒子 |
モニター | モニター | モニター |
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以下の技法を使用
| 以下の技法を使用
| 以下の技法を使用
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用途
| 用途
| 用途
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