蛍光は、分子を励起する光子によって引き起こされる一種の発光です。光子を吸収することにより分子を電子励起状態に引き上げ、励起された分子が基底状態に戻ると、吸収された光子よりも長い波長に対応するより低いエネルギーの光子を放出します。 蛍光分光法は、その蛍光特性に基づいて分子からの蛍光を分析します。
図3は、蛍光現象発生中の、分子の電子状態の遷移を図式化したヤブロンスキー図(Jablonski, 1933)を示します。左の軸は、典型的な発光分子が吸収スペクトルを持つ場合のエネルギー状態を示しています。このスペクトルは、分子が吸光する際のエネルギーまたは波長を示します。 入射光の波長が、分子が光子を吸収する波長である場合、分子は電子基底状態から、ここではS2で示す高いエネルギー状態に励起されます。 その後、電子は振動緩和と熱損失の影響を受けた後、最低一重項励起状態から蛍光発光として光子を放射します。 通常蛍光発光では、吸収される光子よりも長い波長の光が放射されます。この図は、蛍光発光を理解する上で非常に重要で、蛍光スペクトルから分子が発光する強度、波長またはエネルギー、さらに後述する蛍光寿命では分子が励起状態を維持できる時間を調べることができます。 他の分子との間のエネルギー移動、他の分子による消光、温度、pH、局所的な極性、凝集または結合などの物理化学現象は互いに影響を与えます。蛍光スペクトルまたは蛍光寿命を捉えることによりこれらのメカニズムの本質を知ることができます。 蛍光と競合する無輻射失活プロセスには、最低一重項励起状態から基底状態への内部転換と、励起一重項状態から三重項状態への系間交差の2種類があります。後者のプロセスは、後述するりん光と呼ばれる現象を引き起こします。
分子の蛍光寿命とは、分子が励起状態を維持できる時間の平均的な長さです。これは、分子の種類とその局所環境次第で異なります。一般的に、励起状態は下式に示すように指数関数的に減衰します。蛍光寿命は、蛍光スペクトルのような定常状態の測定(時間平均化された信号を与える)ではなく「動的な」測定なので、蛍光寿命を使用することは強度測定と比較して有利な点があります。
\(I(t)=I_0exp^{-t/T}\)
\(\tau\)は、蛍光寿命、つまり強度がその初期値の1/eまで減衰する時間です。 対象の試料が蛍光を発する分子の混合物を含むために励起状態が2つ以上存在する場合、そして様々な局所環境があり、または分子が変換されて様々な励起状態種を生じる場合、減衰はさらに複雑になることが予想されます。存在する励起状態1つに対して1つの指数関数的減衰があります。これは、指数関数の総和(下記参照)で表現され、\(\alpha\)(頻度因子)は観測される全体的な減衰に対する各減衰の相対濃度を示します。
I測定値を比較するために、多くの場合、頻度因子を何らかの方法で正規化すると役立ちます。蛍光を発する種のそれぞれの濃度を比較する必要がある場合には、正規化した\(\alpha\)を使用します。定常スペクトルに対する寄与度(全体的な蛍光発光)を比較する必要がある場合には、振幅の一部または相対振幅(%)を使用できます。後者は、頻度因子を寿命によって重み付けしたものです。 場合によっては、複雑な減衰を平均寿命で表すことがあります。しかし、これは、単一の指数関数的減衰を単に当てはめようとするのではなく、複雑な減衰を実際に正しくモデル化して行う方法を取っていることに注意する必要があります。ほとんどの場合、各成分の平均寿命を使用することが適切であり、蛍光消光実験についても、平均蛍光寿命を採用する方がより正確です。(Lakowicz, 2006)(Berezin, 2010)。
りん光は、光子が一重項励起状態からではなく三重項状態から放射されるプロセスです。放射は概ねピコ秒からナノ秒の範囲ですが、りん光は一般的に、マイクロ秒、ミリ秒、あるいはさらに長く数分または数時間発光し続けます。研究者は、通常、このように長い時間尺度のりん光スペクトルと減衰を測定するために、フラッシュランプまたはLEDなどのパルス光源を使用します。りん光の測定では、キセノンフラッシュランプのような長持続パルス光源を使用します。ランプの閃光タイミングを用いて、様々なりん光寿命におけるスペクトルやりん光寿命を測定することができます。
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