蛍光分光法の分野で広く使用されるようになっている測定法は、励起-蛍光マトリクス(EEM)です。EEMは励起波長vs.発光波長vs.蛍光強度の3つの情報を3次元にプロットしたものです。EEMは、多成分分析を要する様々な用途に使用され、多様な試料の分子指紋を表すといわれます。 EEM分光法の使用例が初めて公開されたのは1980年代で、このときの技術はヒト血清内の低密度リポタンパク質のトリプトファン蛍光を研究するために使用され(Koller, 1986)、さらに腫瘍患者からのヒト血漿内の蛍光成分を調査するために使用されました(Leiner, 1986)。
従来の走査式蛍光分光光度計では、次の3つの基本的な制限があるため十分にEEM分子同定をすることができません。第一に、従来の走査式蛍光分光光度計では、蛍光発光分子の様々な試料濃度を本質的に補正することができません。内部フィルター効果(IFE)は、高い試料濃度(通常0.1~0.2吸光度単位)で生じる吸光による、分子の測定蛍光スペクトルを歪ませる現象としてよく知られています。従来の蛍光計でIFEを補正する唯一の方法は、別の吸光度分光計で測定値を取得して、それに応じて測定蛍光信号を調節することです。しかしこれも非常に煩雑で、同時に全く同じ体積で測定することはできません。そのため、従来の走査式蛍光分光光度計は、濃度への真の依存性を欠いているため、従来のEEMが多くの試料を正確に測定することが困難でした。 第二に、蛍光分光光度計は、当然のことながら蛍光を測定することから、包括的な多成分分子同定の重要部分を成すあらゆる非蛍光分子に関する重要な吸光度や色情報を欠いています。 第三に、単一チャンネルの走査式装置は極めて遅く、全データセットを収集するのに数十分から1時間を要します。そのため、走査式蛍光分光光度計は、1日に収集できるEEMデータ量に制限があり、またEEM取得時間中に変化しない試料しか扱うことができません。 EEM蛍光の精度は、IFE補正なしでは、約0.1~0.2未満の吸光度値のサンプルのみ保たれます。蛍光EEMの真価を得るには、主成分分析法(PCA)、最小二乗法(CLS)および平行因子分析(PARAFAC)といった多変数ソフトウェア手法を採用する必要があります。
内部フィルター効果は、液体試料の光路長に応じて励起光の強度が吸光により次第に弱まる1次フィルター効果(PIF)と、発光された蛍光強度が励起光で直接励起されていない部分によっても再吸光されることにより弱まる2次フィルター効果(SIF)の、2つのプロセスから成ります。
EEMは、水質分析、特に、CDOMとも呼ばれる発色性溶存有機物の研究に使われることが多くなっています。溶存有機物は、アミノ酸、フミン酸、フルボ酸、および天然水源の崩壊物質など、または水処理プロセスの消毒副生成物を含みます。
EEMは、一般的にはppb領域の非常に低い濃度においてそれぞれの存在を識別するために使用されます。理想的には、蛍光スペクトルと吸光度の両方を同時に測定する装置が望まれます。
蛍光性は約0.1~0.2未満の低い吸光度における濃度に対してのみ線形性があるため、これよりも吸光度が高い試料は、紫外可視吸収スペクトルの測定と適用により、内部フィルター効果の蛍光強度に対して補正をする必要があります。
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