ヒストグラムである粒度分布では、縦軸はその粒子が存在する頻度を示します。この頻度の数え方には様々な方法があり、その基準となる数え方を「粒子径基準」と呼びます。測定原理によって得られる粒子径基準が異なるため、異なる測定原理間で粒度分布を比較する際には、粒子径基準について理解しておく必要があります。
個数基準vs. 体積基準
「個数基準」で粒度分布を求める場合、最も典型的なものは顕微鏡で粒子を数える方法です。観察者は粒子 1 つずつにそれぞれの粒子径を割り当てます。この方法で粒度分布を作成すると、縦軸は個数を基準とした粒度分布が得られます。例として、図 6 に示す9 つの粒子からなる粒度分布を考えてみましょう。サイズ(直径)が 1μm の粒子が 3 つ、2μm の粒子が 3 つ、3μm の粒子が3 つあります。
これらの粒子の個数基準での粒度分布を作成すると図 7 のような結果になり、各粒子の大きさが全体の 3 分の 1 ずつを占めることになります。しかし同じ1つの粒子でも、体積で考えた場合には大きな違いがあります。これを「体積基準」と呼びます。体積基準では、個数ではなく体積を縦軸にとって粒度分布を表します。この場合、得られる粒度分布は図 8 のようになります。3μm の粒子が全体の体積の 75%を占め、 1μm の粒子は3%以下となります。
体積基準では、全粒子の質量または体積の大部分が 3μm の粒子によるものであることがより明らかになります。工業的には、重量を基準として加工や評価が行われることが多いため、重量基準とほぼ同じ意味をもつ体積基準が最もよく用いられます。個数基準と体積基準で求められる粒度分布は、分布計算の基準以外はまったく違いはなく、どちらも正しい結果ですが、見え方や得られる代表径の値は大きく異なるものとなります。
個数基準と体積基準の違いを視覚化したもう 1 つの例を紹介します。ここでは、豆を粒子として表現します。図 9 は、3つの大きさのクラスにそれぞれ 13 個の豆がある集団を示しています。個数基準で同じ高さのヒストグラムになる状態ですが、これをメスシリンダーに入れると、図 10 に示すように、大きな豆は小さな豆よりもはるかに大きな体積を表していることがわかります。これが体積基準に換算したヒストグラムに相当します。また図 11 は、個数は異なりますが、それぞれのサイズの豆の体積が等しい豆の集団となっている状態です。これをメスシリンダーに入れると、図 12 に示すように、それぞれの体積が等しいことがわかります。
(City of San Diego Environmental Laboratory 提供 )
さらに、個数基準と体積基準のほかによく用いられる基準として、「面積基準」「重量基準」「散乱光強度基準」があります。「面積基準」では、画像解析法で得られた粒子を1個と数えるのではなく、その面積で頻度をカウントします。また、光吸収で強度を測定した場合には、吸収断面積で数えることになり、これも面積基準の一種となります。「重量基準」は頻度を重さでカウントし、ふるいなどの目を通ったあとの重量を測定して作成します。このとき、密度が一定であれば、体積基準と重量基準は同じものとなります。「散乱光強度基準」では、散乱光の強度で頻度をカウントします。動的光散乱法では、散乱光の強度で粒度分布を作成するため、最初に得られる粒度分布は散乱光強度基準になります。
粒子径基準の変換
たとえば、顕微鏡や画像解析装置で最初に得られる測定結果は「個数基準」です。一方で、レーザー回折 / 散乱式の粒度分布計では、最初に得られる測定結果は「体積基準」となります。これらの結果を比べるには、結果を個数基準から体積基準に、または体積基準から個数基準に変換する必要があります。
測定手法 | 大きさ(横軸) | 量(縦軸) |
---|---|---|
顕微鏡観察 | 幾何学的径 | 個数基準 |
ふるい法 | ふるい法 | 質量基準 |
レーザー回折/ 散乱法 | 球相当径 | 体積基準 |
動的光散乱(光子相関)法 | 拡散係数相当径 | 散乱光強度基準 |
遠心沈降法 | ストークス径 | 面積基準 |
この換算を行うときに、もともとの粒度分布が持っている情報に対して、強調される情報があることに注意します。例えば、画像解析法で得られた個数基準の粒度分布を体積基準に変換する場合、無限に細かく粒度分布が得られていればその変換はまったく問題ありません。しかし、不十分な個数で作成した粒度分布を体積基準に換算した場合、大きい粒子は 1 つで体積に多くの影響を及ぼします。したがって、粒子径の少しの違いが非常に際立つことになります。
同様に、レーザー回折 / 散乱法で得られた体積基準の結果を個数基準に変換すると、もともと小さい側のすそ野であった部分が非常に目立つ形となります。図 13 は、レーザー回折 / 散乱法の測定結果を体積基準から個数基準に変換した例です。体積基準から個数基準に変換すると、中央値が 11.58μm から 0.30μm に大きく変化していることがわかります。
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