サービス > 受託分析・試験サービス > バイオ・ライフサイエンス > X線分析顕微鏡(XGT)を用いたTiO2ナノ粒子食物連鎖の解明
ジャコウアゲハ(Atrophaneura alcinous または Byasa alcinous)は、餌となるウマノスズクサ類 (Atristolochia)に含まれるアリストロキア酸を体内に蓄積し、その毒性で天敵から身を守っていることが知られており、生態学的に注目されています(特に食物連鎖の毒物蓄積)。
TiO2 は生物活性が低いとされていますが、生態系の中での挙動は解明されていません。
そこで、TiO2 ナノ粒子水溶液で水耕栽培したウマノスズクサ(Aristolochia debilis)、そのウマノスズクサを 餌に生育したジャコウアゲハの幼虫、そのジャコウアゲハの幼虫の糞をそれぞれ XGT で測定して、TiO2 ナノ粒子の食物連鎖における挙動を明らかにした研究結果を紹介します。
図1に TiO2 ナノ粒子水溶液で水耕栽培したウマノスズクサを XGT でマッピング測定した 結果を示します。サンプルの茎を水に浸して測定に供しました。植物の葉を生きたまま測定できるため、Ti分布像によって、水溶液から吸収された TiO2ナノ粒子が、生きた葉のどの部分に移動したか確認することができました。
Ti 蓄積部の蛍光X線スペクトルで、Tiのピークが確認できます(図2参照)。さらに幼虫の消化管内部や糞をマッピング測定して、幼虫体内に入った物質 (TiO2 ナノ粒子)が糞として体外に排泄される生態系のプロセスも明確にすることが出来ました。
図3に TiO2を吸収させたウマノスズクサを食べたジャコウアゲハの幼虫をXGT でマッピング測定した結果を示します。大量に摂取した TiO2 粒子の大部分が、糞として体外に排出され、わずかに肛門付近に残った様子が確認されました。
XGTで植物サンプルを測定する時、生きたまま測定することができます。植物はほとんど動かないので、 脱水による萎れに注意すれば、生きたままマッピング測定が可能です。
XGTでホルマリン漬けの生体サンプルを測定する時、浸潤状態のまま測定することができます。乾燥によ る変形を心配せず、生きたままと同じ姿勢のマッピング測定が可能です。浸潤状態の幼虫を測定後、幼 虫の糞を測定し、幼虫体内に入った物質(TiO2粒子)が糞として体外に排泄される生態系のプロセスを明 確にすることができました。
ここで紹介したTiO2ナノ粒子の食物連鎖を解明した事例の詳細については、
<The transfer of titanium dioxide nanoparticles from the host plant to butterfly larvae through a food chain> Nature Scientific Reports 2016 をご参照ください。