サービス > 受託分析・試験サービス > 半導体 > 透明電極の測定例
透明電極は可視域において透明であり電気を流すことができる材料であることより、太陽電池といった光電デバイスや、発光ダイオード(LED)、有機ELなどの発光デバイスで使われております。このような材料の膜厚、光学定数(n&k)、電気特性などの評価を非破壊・非接触で行うことができれば、開発や品質管理を行う上で非常に役立ちます。
分光エリプソメーターではITOやSnO2、あるいはFTOなどといった透明電極に用いられるTCO(透明導電性酸化物)の評価を、非破壊・非接触で行うことが可能です。膜厚、屈折率(n)、消衰係数(k)のほか、テクスチャ構造の表面粗さや、電気特性(電子移動度、キャリア密度、抵抗率)の評価も可能です。
本アプリケーションノートではガラス基板上のITO膜、フィルム基材上の不均一ITO膜の電気特性の評価、表面がテクスチャ状になっているSnO2膜の評価について紹介しています。
分光エリプソメトリーは、入射光と反射光の偏光状態の変化を波長ごとに計測し、得られた測定データをもとに光学モデルを作成、フィッティング計算をすることにより薄膜の膜厚および光学定数(屈折率n、消衰係数k)を非破壊、非接触で求める分析手法です。この手法を行う装置を分光エリプソメーターといいます。
ガラス基板上の透明電極材料を分光エリプソメーターでそのまま測定すると、裏面反射の影響により、厚と光学定数(n&k)を求めることが難しいと言われています。しかし裏面反射を考慮した光学モデルを作成することにより、ガラス基板の加工をすることなく膜厚とn&kを算出することが可能になります。
得られた消衰係数(k)を確認すると、近赤外領域でkの値が大きくなっております。これは自由電子の吸収によるものです(図3)。この自由電子の吸収を表すDrude分散式より、電気特性を求めることができます。
ガラスのような硬質基板のみならず、フレキシブルなフィルム基材上のITO膜も評価可能です。
PET基材上のITO膜に対して、均一モデル(図4-a)と勾配モデル(図5-a)でフィッティングを行いました。その結果、均一モデルでは測定データとフィッティングカーブにズレが見られたのに対し(図4-b)、勾配モデルでは測定データとフィッティングカーブが一致し、これらの差を表す平均二乗誤差(χ2) が小さくなりました(図5-b)。この結果より、ITO膜のn&kは深さ方向に勾配があることがわかりました。
深さ方向にn&kの勾配がある場合、それを考慮した勾配モデルを作成することで、膜厚とn&kの深さ方向の変化を求めることができます。
勾配モデルの結果よりITOの表面側と基板側では、光学定数(n&k)が異なることがわかります。長波長側の消衰係数(k)を確認すると、表面側が基板側よりも大きくなっています(図5-c)。これは近赤外領域に見られる自由電子の吸収に差によるものです。この差は電気特性の違いが原因ではないかと推測されます。図6よりn&kの変化は深さに対して線形ではなく、基板側半分で変化し、表面側はほぼ均一であることが分かりました。
近赤外領域に現れる、自由電子による吸収を表すDrude分散式より、膜の電気特性:抵抗率ρopt(Optical Resistivity)、移動度μopt(Optical Mobility)、キャリア密度Nopt(Optical Carrier Density)を求めることができます。
フィッティング結果より、Drude分散式のパラメーターωpとΓDが求められます。
得られたωpとΓDから、電気特性が計算することができます。
ωp:プラズマ周波数
ΓD:減衰係数
ref. (1) T. Yamada, et al., J. Appl. Phys., 107, 123534 (2010)
(2) W. Noun, et al., J. Appl. Phys., 102, 063709 (2007)
太陽電池に用いられる殆どの透明電極は、表面がテクスチャ構造になっています。これは透明電極の表面で光を散乱させて、光電変換層の光吸収を増やすことにより、太陽電池の効率を上げることが目的です。
粗さが測定波長の数分の1以下であれば、表面がテクスチャ構造でも測定が可能です。この場合、通常の数nm程度の表面ラフネスとは異なり、図7のように数十nmのラフネス構造を含んだ光学モデルを作成してフィッティングすることにより、テクスチャの大きさをラフネスとして表すことができます。
図7のテクスチャSnO2膜を2層に分けたモデルでフィッティングを行った結果、長波長側の消衰係数(k)の大きさに違いが見られ、自由電子の吸収に差があることが分かりました(図9)。
分光エリプソメーターではガラス基板上の透明電極でも、裏面反射を考慮した光学モデルを用いることでガラス基板の加工は不要になり、膜厚と光学定数(n&k)を非破壊・非接触で求めることができます。硬質基板のみならず、フレキシブルなフィルム基材上の透明電極を評価することも可能です。均一および勾配モデルでそれぞれフィッティングを行い、勾配モデルの方が平均二乗誤差(χ2)が小さくなることで、深さ方向におけるn&kの不均一があることがわかります。 近赤外領域に現れる自由電子の吸収を、Drude分散式を使って解析することにより、電気特性(抵抗率、移動度、キャリア密度)を計算することができます。粗さが測定波長の数分の1以下であれば、表面がテクスチャ構造でも評価が可能です。