イオン電極によるイオン濃度の測定範囲は、通常上限は10-1 mol/L程度から下限は10-4 ~10-7 mol/Lの範囲です。
なお、この方法の適用下限はイオン電極の種類や構造によって異なるため、標準液を用いて下限付近における再現性を確認しておかなければなりません。また、上限、下限付近では濃度変化に対する電位変化の割合が小さくなっていることがあるため、測定サンプルの濃度に近い濃度の標準液を用いて校正を行う必要があります。
活量係数はイオン強度の影響を受けて変動し、測定誤差の原因となるため、測定対象溶液のイオン強度を一定に保つ必要があります。その対策としては、対象イオンと反応せず電極電位に影響を与えない、無関係塩(支持電解質)を添加する必要があります。この無関係塩の種類や添加量は対象イオンの種類や濃度によって異なります。
イオン電極の電極電位が1mV程度の範囲内で一定になるまでに要する時間は、電極の種類、構造、イオンの種類、濃度、イオン強度などによって異なります。
イオン濃度が低濃度の測定から高濃度の測定に移る場合の応答時間は比較的に短いですが、逆の場合は長くなる傾向があります。また、定量下限近くでは応答時間は一般に長くなり数分を要します。1mVの電位変化は、濃度1桁の変化に対する出力に対して1価イオンのときは約4%、2価イオンのときは約8%の濃度誤差に相当する測定誤差を与えるため、イオン電極方法においては、電位差計の指示が一定になってからこれを読み取るように注意しなければなりません。
イオン電極の種類と構造によって使用可能なpHの範囲が決まっています。この範囲は対象イオン濃度が低くなるにつれて一般に狭くなります。
また、イオン電極の種類と構造によっては、イオン応答膜の成分がサンプルのpH(強酸、強アルカリ溶液など)により溶解したり電極電位が変化したりするものもあります。さらに、pHの影響によってイオン電極の感度が低下したり、検量線が平行移動したりする場合もあります。これらの影響を避けるために、サンプルを使用可能なpHの範囲に保ちます。
イオン電極方法で測定される電位勾配は、サンプルの液温の影響を受けて液温が10℃上昇するごとに1価イオンでは約2mV、2価イオンでは約1mVの変化を生じるので、検量線作成の標準液の液温とサンプルの液温を等しくしておかなければなりません。
特に、ス夕ーラーの発熱により液温に影響が出る場合があるため、注意します。
(スターラーとビーカーの間に発泡スチロール板を挟むとこの影響を低減できます。)
ネルンストの式から計算した電位勾配 (単位:mV/pX)
温度(℃) | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 |
---|---|---|---|---|---|---|
1価イオン 2価イオン | 54.20 27.10 | 56.18 28.09 | 58.16 29.08 | 60.15 30.07 | 62.13 31.07 | 64.11 32.06 |
測定溶液の撹拌状態は、イオン電極による電位差測定に対して電極電位、応答速度、定量下限の変化となって影響します。この影響を避けるには測定の妨害とならない範囲でなるべく速く、かつ一定の速さで撹拌しながら測定することが必要です。
イオン電極の中には、光の影響により電位が変化するものがあるため、このようなイオン電極を用いるときには褐色ビーカーなどを用いて光を避けることが必要です。特に、ハロゲン化銀を主成分とする固体膜イオン電極は光の影響を受けることがあります。
イオン電極はイオン選択性に優れていますが、すべてのイオンの影響を受けないイオン電極はありません。したがって、イオン電極方法においては共存イオンの影響を熟知してその影響を避ける方策をとることが重要です。
電極電位に対する共存イオンの影響は、イオン応答膜の構成物質と共存イオンの反応性から予想することができます。たとえば、固体膜電極の場合にはイオン応答膜の構成物質と難溶性の化合物を作るイオン、あるいは錯塩を形成する共存イオンは電極の感度に大きな影響を与える可能性があります。また、液体膜電極の場合にはイオン応答膜中の成分とイオン会合体を作る共存イオンは電極の感度に影響を与える可能性が大きいと言えます。
イオン濃度の変化率に対する電位変化の関係は、ネルンストの式から、
△C/Co=10△E /(2.303 RT/zF)-1
で与えられます。したがって、1 mVの電位変化は25℃で1価イオンの場合3.97%、2価イオンの場合、8.22%の濃度誤差を生じることになるため、イオン電極による測定においては、少なくとも1 mVまで読み取ることのできる電位差計を用いて正確に行う必要があります。
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