前章のやさしい導電率の話では、私たちの身近なところで見られる導電率に関連した事項を中心に解説しました。
この章「導電率測定の基礎」では、導電率計を用いる場合の基礎的な事項および実際の導電率測定に付随する事項について必要な専門用語の意味を含めて解説します。専門用語は必要不可欠なものに限定していますので、次の各項目についてお付き合いください。
電気が固体(電線など)の中を流れる場合、電子が重要な役割を果たします。そして、電気が液体(水溶液など)の中を流れる場合は、イオン(プラス(+)の電荷を持った陽イオンおよびマイナス(-)の電荷を持った陰イオン)が重要な役割を果たします。
導電率とは溶液中での電気の流れやすさを示す指標ですので、結局溶液中のイオンの存在量とその動きやすさに依存することになります。
ここで基本となるルール(法則)は、有名なオームの法則です。オームの法則とは電線などを流れる電流(I)はその間に加えられる電圧(E)に比例し、その間の抵抗(R)に反比例するというものです。すなわち、
I=E/R (I:電流[アンペアA]、E:電圧[ボルトV]、R:抵抗[オームΩ])
オームの法則を川の流れに置き換えてみると、流れる水の量が電流、水が流れるための川の高低差が電圧、川の長さや川幅、あるいは川の中の障害物などに相当するのが抵抗です。
高低差(電圧)が大きく、川の障害物など(抵抗)が少ないほど水の流れ(電流)が多くなります。
溶液中を電流が流れる場合も前記の例えと同様です。ここで抵抗(R)の逆数を考えてみます。電流の流れやすさを妨害するのが抵抗ですので、その逆数は電流の流れやすさの指標となります。これをKであらわすと、
1/R=Kとなります。
したがって、溶液中を流れる電流は
I=K・E (I:電流[アンペア(A)]、E:電圧[ボルト(V)]、K:電気のコンダクタンス(電気の流れやすさ)[ジーメンス(S)])となります
※ジーメンスSは抵抗(Ω)の逆数です。
ここで固体の場合と異なり、溶液の場合は一つ考慮しなければならないことがあります。すなわち、水溶液の場合2つの電極間に一定方向の電圧(直流電圧)を加えると、水の電気分解などが生じるということです。そのため、導電率の測定には方向が周期的に変化する電圧(交流電圧)を加えて電気分解を防止します。通常、センサー部の電極には交流電圧が加えられています。
ここで再度抵抗R(Ω)の中身について考えます。抵抗Rは、川の流れから考えられるように電気の流れる電線などの長さに比例し、電線などの断面積に反比例することになります。
R=r・L/S (r:抵抗率、L:長さcm、S:断面積cm2)
すなわちr(抵抗率)の単位はΩ/㎝となります。ここでL/Sをセル定数aと呼ぶと、その単位は㎝-1となります。
rの逆数1/r=k(比導電率)と称します。一般にこのkが導電率と呼ばれています。すなわちk=1/r=a/R、その単位はS/㎝となります。
導電率の単位S/㎝の1000分の1がmS/㎝、そのさらに1000分の1がμS/㎝となります。
SI単位系では、μS/m、mS/m、S/mが用いられ、1μS/㎝=100μS/m=0.1mS/mとなります。
導電率測定セル(電極)には、一般にセル定数a=0.1cm-1、1cm-1、10cm-1の3種類が準備されています。SI系で表示すると、それぞれa=10m-1、100m-1、1000m-1となります。
中学生の頃、電気の基本的な考え方としてオームの法則を習ったことを覚えていますか。日常生活において、オームの法則が必要な人はあまりいないと思います。ここでは最小限必要な概念を説明します。
突然式が出てきましたが、これが有名なオームの法則をあらわすものです。
私たちの家庭で使っている電気は100ボルト(V)であり、単1や単2の乾電池は1.5ボルト(V)です。これを「電圧」と言っています。
電池に豆電球をつなぐと電球が灯ります。これは電流が流れたためです。電流の流れを邪魔するものが抵抗であり、抵抗が大きいほど電流は流れにくくなります。
オームの法則を川に置き換えて考えてみてください。川が流れるための高低差が電圧、流れる水の量が電流です。川の長さや川幅、川の中の障害物に相当するものが抵抗です。
同じ水が流れる川でも高低差があるほど、また太くて短く川の中に障害物がないほど流れる水の量は多いということです。
ここで頭の中を整理するために問題を考えてみましょう。
問 1.5ボルト(V)の単1電池に、点灯時に抵抗が3オーム(Ω)の豆電球をつなぐと電流は何アンペア(A)流れるでしょうか。
次ページ 水の中のイオンと導電率