溶存酸素測定においては、感度校正や測定時の試料水の撹拌が原理上必要となり、また塩分、温度と気圧の影響を受けます。
隔膜電極法では感度校正には原則として、次のような液が用いられます。
① DOゼロ液(純水に亜硫酸ナトリウムを過剰に添加したもの)
② DO空気飽和液(純水に空気をバブリングしたもの)
③ DO純酸素飽和液(純水に純酸素をバブリングしたもの)
ただし、隔膜電極法のDOセンサーの出力は酸素分圧に比例するため、②の液の代わりに、大気中に一定時間(2~3分程度)さらして校正することも可能です。当社では、野外で用いることが多い水質チェッカのDO計にこの校正方法を採用しています*。
なお、①のDOゼロ液は、亜硫酸ナトリウムがDOと反応して亜硫酸ナトリウムが過剰の場合DOがゼロとなることを利用したものです。②の空気を飽和する場合は、小型ポンプ(たとえば金魚飼育用のポンプ)で数分~10分程度、小型容器中の純水に空気をバブリングして、③の純酸素を飽和する場合は、数分~10分程度、小型容器中の純水にボンベの純酸素をバブリングして調製できます。なお、純酸素をバブリングする際は火気に注意してください。
通常のDO測定には、①の液でゼロ校正を、②の液または大気にさらして飽和DO校正をします。また、一定温度(たとえば25℃)で校正および試料液のDO測定をするのが原則です。
* 堀場製作所(発明者;森 健、大川浩美、河野 訓)特公平7-113630(1992年出願)
試料液中のDOを一定速度でDOセンサーの隔膜に接触させるため、試料液を一定速度で撹拌する必要があります。同様の目的でフローセルを用いることもあります。
実験室などにおいての測定中は、マグネチックスターラーを用いて一定速度(渦をまかない程度の回転数(500~1,000rpm))で撹拌してください。スターラーの使用によりサンプル温度が上昇するときは、恒温槽を使ってください。フィールド測定の場合は、電極を上下に一定の速さ(2秒間で30cm 位) で動かしながら測定してください。
前述のとおり、飽和溶存酸素濃度は共存する塩分濃度の影響を受け、塩分濃度が高くなるほど飽和DO濃度は低くなります。
これは、図1に示した塩化物イオン(Cl-)濃度と飽和溶存酸素の関係からもよくわかります。しかし隔膜電極法においては、「隔膜ガルバニ電極法」および「隔膜ポーラログラフ法」(以下、両方法を示す場合は単に「隔膜電極法」と記す)とも、その出力は溶存酸素濃度ではなく酸素分圧に対応しますので、その出力には塩分濃度の影響が反映されません。そこで、試料液の塩分濃度を算出して、その値からDO濃度の減少分を補正することができます。
塩分濃度は導電率測定値から計算できるため、当社ではこの方式を用いてDO濃度の塩分補正機能を組み込んだ機種を販売しています。なお、試料液の塩分濃度に対応したDO濃度の減少割合は、「溶存酸素とは」のページ内表1の最右欄に、塩化物イオン(Cl-)100mg/Lあたりに差し引くDO量mg/Lとして表示しています。
図1 塩化物イオン濃度と飽和溶存酸素量(at25℃)
隔膜電極法のDOセンサーに対する温度の影響は、主にDOの隔膜透過速度に表れます。温度が高くなるほどDOの隔膜透過速度が速くなり、DOセンサーの感度が上がります。飽和DO濃度に対する温度の影響は、「溶存酸素とは」のページ内表1に示した通りですが、ここではこの影響を除き、純粋にDOセンサーに対する温度の影響を検討します。
図2は、当社のマルチ水質チェッカ(型式:U-50)のDOセンサー(隔膜ポーラログラフ法)の出力に対する温度の影響を示したものです。隔膜の厚さ50μmの場合について、25℃における出力を100%として、温度が変化した場合の出力変化(%)を示しています。DOセンサーの出力は、25℃を基準とすると、温度1℃の上昇で約4%のプラスの影響を受けることがわかります。なお図2中に示した小さなグラフは、飽和DO濃度に対する温度の影響を参考に示したものです。
図2 隔膜電極法DOセンサーの出力に対する温度の影響
さらに、隔膜電極法では酸素分圧を測定していますので、気圧(大気圧)に比例して変化します。たとえば、地表で大気圧1気圧(1013ヘクトパスカル)が5,000m上昇すると、大気圧は0.5気圧程度となりますが、この場合DOセンサーの出力は1気圧のときの約半分となります。DOの種々のデータを比較する場合、気圧補正が加えられているかを注意する必要があります。たとえば、25℃、大気圧980ヘクトパスカルの際に測定されたDO濃度が6.5mg/Lであった場合、25℃、1013ヘクトパスカル(1気圧)のときの値に補正する計算は次の通りです。
隔膜電極法DO計に気圧計を組み合わせて、大気圧補正した値(1気圧下での値に換算した値)を表示する機能を付加した計器を作ることも考えられます*。
また、水深が深くなるほど水圧が増加し、水深10mあたり約1気圧増加します。この水深測定用の水圧検知に基づき、DOセンサーの補正をする(1気圧下での値に換算した値を表示する)ことも考えられます*。
* 堀場製作所(発明者;小林剛士)特許第3959166号、(1997年出願)
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