各種食品15種類について、それらのカリウム含有量を炎光光度計およびカリウムイオン電極を用いて測定し、両者の相関を調べた結果が図1に示されています *。
図中の横軸は炎光光度計による測定結果を示し、縦軸はカリウムイオン電極による測定結果を示しており、両者はよく一致していることがわかります(相関係数r=0.99、n=15)。値はいずれも、試料100g中のカリウムmgで示されています。
* カリウムイオン選択性電極を用いた食品中のカリウムの測定 宮崎毅、青海隆、電気化学、52(8)、521~523(1984).
図1.各種食品中のカリウムの測定例
x軸(炎光光度計)、y軸(カリウムイオン電極)
食品試料として、(1)グレープジュース、(2)アルカリイオン飲料、(3)スポーツドリンク、(4)牛乳、(5)トマトジュース、(6)キュウリ、(7)ハム、(8)ジャガイモ、(9)キャベツ、(10)ウスターソース、(11)バナナ、(12)醤油、(13)トマトケチャップ、(14)パセリ、(15)味噌の15種類のカリウム含有量を測定しました。(1)、(2)、(3)および(4)の試料は希釈せずにpH調整のみを行なって直接測定しました。(5)~(15)の試料は約1gの試料を100倍に希釈して測定しましたが、このとき(5)、(7)、(10)、(12)、(13)および(15)の試料はpH調整を行い、(6)、(8)、(9)、(11)および(14)の試料は塩酸を加えて1%塩酸溶液としたのち、水酸化ナトリウムで中和して測定したものです。
なお、固形試料はメノウ乳鉢で充分すりつぶした後、前述の前処理をほどこして測定しました。
その他多くのイオン電極は、以前からその時々の需要に応じて専用イオンメーターの検出部として用いられてきました。それらの例として次のようなものがあります。
なおイオン電極に関しては、JIS K 0122 - 2011 確認「イオン電極測定方法通則」が制定されています。
次の2つの図は加工食品中の塩分(食塩換算)をナトリウムイオン応答ガラス電極を用いて測定し、滴定法(モール法)とナトリウム炎光光度法で測定した値を比較したものです。
図2-1:滴定法とナトリウムイオン電極法による加工食品中の食塩測定値の比較
図2-2:炎光光度法とナトリウムイオン電極法による加工食品中の食塩測定値の比較
加工食品としては、①醤油、②ウスターソース、③トマトジュース、④野菜ジュース、⑤マグロフレーク缶詰(汁)、⑥味噌、⑦タラコ、⑧トマトケチャップを用い、①および②は1.00㎝3を、③、④および⑤は10.0㎝3を、⑥、⑦および⑧は1.00gを採取し純水を加えて全量を100㎝3のサンプルとして測定しました。測定値は各試料中のwt.%(質量%)として表示しました。
図2-1では回帰直線として
y=1.03X-0.29 および y'=0.96X’+0.35 が得られ
相関係数は y=0.99(n=8)となり、
図2-2では y=0.93X+0.28 および y'=1.07X'-0.27 が得られ
y=0.99 (n=8)となりました。
加工食品中にはグルタミン酸ナトリウムなど食塩以外にナトリウムイオンを生じる物質が添加されていることが考えられますが、塩化物イオンを測定する滴定法による測定結果とナトリウムイオン応答ガラス電極による測定結果がよく一致したことより、測定した範囲内ではこれらの加工食品中のナトリウムイオンの多くが食塩に起因していると考えられます。また、ナトリウム炎光光度法による測定結果とナトリウムイオン応答ガラス電極による測定結果がよく一致したことより、測定した加工食品中にはナトリウムイオン応答ガラス電極の妨害イオンとなるカリウムイオンの含有量は少なかったものと思われます。
青海 隆、宮崎 毅、電気化学、49(10)、P657~659(1981)
産業分野でのイオン電極の使用例の1つとして、微量ナトリウムイオンモニターを紹介します。火力発電所、原子力発電所で発電用のタービンを回した水蒸気は最終的に外部水(主に海水)で熱交換器を介して冷却されて復水としてボイラー水に戻されます。
この際、熱交換器にピンホールなどが生じるとボイラー水中に微量の海水が混入します。これを監視するために用いられる測定器がNa+電極を検出器とする微量ナトリウムイオンモニターです。
図3.微量ナトリウムイオンモニターによる標準液および実ボイラー水の測定例
この図3は、微量ナトリウムイオンモニターでの標準液10-6M(23ppb Na+)、10-7M(2.3ppb Na+)と実ボイラー水を測定した結果の一例です。なお、測定時には標準液およびサンプルにアミン類の溶液を加えて強アルカリ性にし、水素イオンの妨害を受けないようにします。この実ボイラー水では0.6ppb程度のNa+が検知されていますが、このレベルの標準液は正しく調製することが困難なため正確な値はわかりません。ただ、ボイラー水への冷却用海水の混入があればたとえ微量でもこの値が急変するため熱交換器(冷却器)にピンホールなどが存在することがただちに警告されることになります。
ナトリウムイオン濃度測定装置、実用新案出願公告平2-10456
堀場製作所 1982年出願、考案者:秋山重之、青海隆.
半導体エッチング液にはフッ酸が含まれており、水酸化カルシウムを加えて排水処理した後フッ化物イオンの含有量を測定して工場内で再使用されます(一般に半導体工場はクローズドシステムと呼ばれ、外部に排水を出しません)。
図4.プロセス水中のフッ化物の測定値の一例
図4は、比色法およびF-電極を検出器とするフッ化物イオンモニターで処理後の排水を測定した例です *。
比色法では、試料水に蒸留操作を加えて結合状態のフッ素(たとえばCaF2のフッ素)まで測定しますが、イオンモニターでは遊離のF-のみ測定します。したがって、測定値には差がある(比色法の方が高濃度を示している)ものの、両者の追従性はよく一致していることがわかります。
フッ化物を含む排水処理では、CaF2は沈殿除去するため、遊離のF-の濃度を検知するのが重要です。
* イオン選択性電極とその実用例
青海隆、JSR、No3. p.14~21(1981).
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