溶存酸素とは、水中に溶け込んだ酸素のことを言い、河川・湖沼の水質計測においてpHと並び重要な環境指標です。湖沼などでは、赤潮などの影響で植物性プランクトンが大量発生し、水中の溶存酸素が極端に消費され、溶存酸素不足により魚介類が窒息して大量死する例もあります。また、近年では細胞培養プロセスにおいても培養液の溶存酸素管理もされています。
この章では、「溶存酸素とは何か」や「溶存酸素の測定方法」について説明します。
溶存酸素(Dissolved Oxygen、以下DOと記す)とは、水中に溶解している酸素(O2)のことであり、自然界では大気中のO2の分圧に比例して水中に溶解しています。その濃度は、単位容積当たりの水に溶解しているO2量(mg/L)であらわします。25℃、1気圧(1013ヘクトパスカル)において、純水に溶解する飽和O2濃度は8.11mg/Lであることが知られています。
(JISK0102-2010)
水中に住む魚などの生物は、このDOを取り込んで生きています。DO濃度は水温、塩分濃度、気圧などの影響を受け、水温の上昇とともにその飽和濃度は減少します。
また、BODまたはCOD*1の高い有機汚濁の進んだ水中では、好気性微生物による有機物の分解によって多量のDOが消費され、濃度が低くなります。したがって、有機汚濁の進んだ河川水では、気温の高い夏期にDO不足による水中生物の壊死が発生しやすくなります。
2009年5月28日から6月9日までの12日間、HORIBAのマルチ水質チェッカ(型式:U-50)を千葉県の印旛沼の表層付近に設置し、DOなどの連続測定をしました*2。図1にはDOおよびTurb(濁度)の測定結果を、図2にはpHおよびORPの測定結果を示しました。DOは各日とも朝から昼間にかけて増加し、夕方から翌朝にかけて減少しました。図1においてDO濃度がピークを示している6月1日、2日、4日、6日などが晴天、または晴天に近いうす曇りだったことから、水中植物による昼間の光合成(炭酸同化作用)による酸素生成と、夜間の呼吸による酸素(DO)消費に対応しているものと考えられます。
*1 水の有機汚濁の程度を示す指標であるBOD(Biochemical Oxygen Demand)またはCOD(Chemical Oxygen Demand)は、水中の汚濁有機物を分解するのに必要な酸素の量、または酸化剤の量でその汚濁の程度を表したものです。
*2 小松佑一朗,江原克信、小椋克昭、“多項目水質計U-50シリーズの開発” HORIBA技術情報誌 Readout,No35,56~61(2009).
図1 印旛沼におけるDO、濁度の測定結果(2009年5月28日~6月9日)
図2 印旛沼におけるpH、ORPの測定結果(2009年5月28日~6月9日)
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