pHの測定方法には大別すると次の4つがあります。
では、それぞれの測定法について簡単に説明しましょう。
この方法には、緩衝液などを用いて種々のpHに対応する標準色を作っておき、この色とサンプル(試料)中の指示薬の色とを比べる方法と、紙に指示薬を浸み込ませたpH試験紙を作っておいて、この紙をサンプルに浸して発色を標準色と比べる方法があります。簡便ですが、種々の誤差*があり精度は期待できません。
* 誤差の種類としては
- サンプル中の高濃度塩類による誤差
- サンプル中の温度による誤差
- サンプル中の有機物による誤差
などがあります。また、指示薬法では高純度水のpH測定は不可能です。指示薬自体の影響があらわれるからです。
水素電極とは、白金線、あるいは白金板に白金メッキにより白金黒をつけたものをサンプルに浸し、その溶液と白金黒とに水素ガスを飽和させる電極です。
水素電極法は、種々のpH測定方法の基準ともなるべきものであって、他の方法によるpH測定は、水素電極法による値と一致することによりはじめて信用がおけるものとされています。
しかし、水素ガスは取り扱いが不便であり、またこの方法には酸化性あるいは還元性の強い物質による影響が大きく、測定には大変な手間がかかることから日常的に用いるには適当とは言えません。
キンヒドロンを液に加えると、ハイドロキノンとキノンとに分かれます。
キノンは液のpHに応じて溶けますので、白金電極と比較電極によって電位差からpHを求めることができます。
この方法は簡単ではありますが、酸化性あるいは還元性物質のある場合や、被検液のpHが8または9以上の場合に用いることができないという欠点があるため、現在ではほとんど用いられていません*。
* ORP(酸化還元電位)測定器が正常に作動するかどうかのチェックに、pHを一定にしたキンヒドロン水溶液が用いられる場合があります。これはキンヒドロン電極の原理を応用したものです。
アンチモンの棒の先端を磨いて比較電極とともにサンプルに浸し、双方の間の電位差からpHを求める方法です。丈夫で取り扱いやすいためによく用いられていましたが、電極の磨き方によって指示が変わることや、再現性が良くないことなどから現在では限られた用途*以外には用いられていません。
* フッ酸(HF)を含むサンプルで、それほど精度を要求されない場合(工業用のみ)に使用されることが多いようです。
ガラス電極法とは、ガラス電極と比較電極の2本の電極を用いて、この2つの電極の間に生じた電圧(電位差)を知ることで、ある溶液のpHを測定する方法です。電位の平衡時間が早くて再現性がよいこと、また酸化剤や還元剤の影響を受けることが少なく色々な溶液について測定できることから、pH測定では最も多く用いられている測定法です。
またこの方法は、工業分野だけでなくあらゆる分野でも広く行われています。
JISでも、「pHの一般的測定方法」のページ(JIS Z 8802およびJIS K 0102)で、「pHの工業的測定に対しては、定義に記載されたような水素電極による測定方法が必ずしも適当ではないので、ガラス電極による測定方法が推奨される」とされています。
半導体を用いたpHセンサは、ガラス電極の機能を半導体チップで実現しようというもので、1970年頃にその開発がスタートされました。このセンサはISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor (イオン応答電界効果トランジスタ))と呼ばれ、ガラスを用いないため割れにくいという特長のほかに、小型化・微小化が可能という利点があります。小型化・微小化はより少ない試料での測定や微小な空間での測定、さらには固体表面の測定を可能とし、バイオや医学分野での測定への応用が期待されます。
「pHイメージング」は、複数点でpHを測定し、その結果を画像として表示する測定法です。pHの分布を見える化(可視化)する技術として、近年注目されています。
歴史的には、⑴で紹介したpH指示薬と顕微鏡を組み合わせた方法が古くから細胞内部のpH測定に用いられてきましたが、pH指示薬に代わるpH感受性色素や、pH感受性タンパクの考案で細胞内部のpH分布の違いなどがわかるようになってきました。また、近年は⑹で紹介した半導体pHセンサを多数並べ、イメージングに適用している例もあります。
【参考文献】 野村 聡、ぶんせき、Vol.18、P468、2011.
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