一充電走行距離・交流電力量消費率試験

GTR No.22 バッテリー耐久試験要件とは

自動車の環境規制であるEuro 7やTier 4で導入されることが決定しているIn-vehicle Battery Durability(バッテリー耐久要件)とは何か、どのような試験法が定められているか、解説します。

目次

In-vehicle Battery Durabilityとは

In-vehicle Battery Durabilityとは、車載したバッテリーに対する耐久要件のことで、今後の自動車環境規制である、EUのEuro 7*1や米国Tier 4*2にて、導入されることが決定しています。また、日本でも、劣化率の出力義務化*3が予定されています。

*1 REGULATION (EU) 2024/1257 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 24 April 2024
*2 Multi-Pollutant Emissions Standards for Model Years 2027 and Later Light-Duty and Medium-Duty Vehicles, Federal Register / Vol. 89, No. 76 / Thursday, April 18, 2024 / Rules and Regulations
*3 国土交通省:国土交通省告示第521号、官報、号外第128号,p21,2021

In-vehicle Battery Durabilityの試験法 GTR No.22

バッテリー耐久要件の試験法として、2022年3月9日に、国連にてGlobal Technical Regulation No.22が成立しました。これは、乗用車、小型商用車の電気自動車(BEV:Battey Electric Vehicles)、およびプラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Vehicle)を対象としたものです。

バッテリー最低性能要件(Minimum Performance Requirements [%];MPR)とは

ライフタイムにわたるバッテリー劣化率として、バッテリー最低性能要件(Minimum Performance Requirements [%]、以下MPR)を定めています。MPRの指標には、バッテリーの使用可能エネルギーの劣化率 Stage of certificated energy(SOCE)と、航続距離の劣化率 Stage of certificated range(SOCR)の2つがあります。 自動車メーカーは、SOCEおよびSOCRの情報をユーザーへ表示し、OBDポートやOTA(Over-the-Air、無線での通信形態)で、それらの値を取得できるようにする必要があります。
本GTRでは、SOCEのMPRについて下記のように定めています。SOCRについては、今後閾値を決定していく、としています。

 

バッテリ使用可能エネルギーの劣化率 (SOCE) MPR

本GTRの対象のうち、カテゴリー1-1、1-2の車両

OVC-HEV

PEV

5年以内または10万km以内

80%

80%

5年以上または10万km以上で、

8年または16万kmに達するまで

70%

70%

本GTRの対象のうち、カテゴリー2の車両

OVC-HEV

PEV

5年以内または10万km以内

75%

75%

5年以上または10万km以上で、

8年または16万kmに達するまで

65%

65%

※GTR No.22をベースに弊社にて作成
※category 1-1, 1-2は乗用車、category 2は貨物車
※年数、距離はどちらか早い方を適用

GTR No.22試験概要

バッテリーの使用可能エネルギーの劣化率SOCE[%]を規定する試験法について紹介します。以下は、BEVの計測法の一例です。

▶ SOCEとは?

バッテリー劣化指標SOCEとは、型式認証時に申請したバッテリーの使用可能エネルギー(Usable Battery Energy、以下UBE)と、使用過程時、劣化した状態で測定したバッテリーの使用可能エネルギー(UBE)との比率です (式1)。 例えば型式認証時のUBEが50kWhで、使用過程時に測定された値が40kWhであれば、80%となります。

UBEは、試験室にてWLTP試験を実施し、値を決定します。図1は、BEV WLTP試験のうち短縮法と呼ばれるもので、WLTCと定速フェーズを組み合わせたものです。図2は試験時のSOC(Stage of Charge;充電量)変化図です。満充電の状態から、試験中止基準に到達するまで試験サイクルに沿った走行を行います。試験中止基準は、電力を消耗したことによりサイクルに追従できなくなる時点です。このように電気エネルギーの不足により走行ができなくなるまでに消費した全電力量がUBEと定義され、認証時に取得したUBEと、使用過程で取得したUBEの値の比率がSOCE [%]となります。

Fig1. GTR No.15 Figure A8/2 BEV WLTP試験サイクル例(短縮法)
Fig1. GTR No.15 Figure A8/2 BEV WLTP試験サイクル例(短縮法)

 

Fig2. GTR No.15 Figure A8.App1/7 BEV WLTP試験サイクル(短縮法)におけるSOC変化
Fig2. GTR No.15 Figure A8.App1/7 BEV WLTP試験サイクル(短縮法)におけるSOC変化

 

▶ 使用過程車試験

Part AとPart Bで構成されます。

・Part A : 表示精度の検証
試験室でWLTP試験を行い、UBEを実測することで、SOCEモニタの表示値の精度確認を行います。

・Part B:バッテリー耐久要件の確認
Part Aで精度検証を行ったモニタ表示値に基づき、SOCE [%]がMPRを満たしているか確認を行います。

以上に基づき、車両から得るバッテリー劣化率SOCEがバッテリー最低性能要件MPRを満たしているか、ライフタイムにわたって、使用過程車試験にて検証されます。

今後の展望

欧州、北米(CARB, EPA)、日本などでは、GTR22を基にしたバッテリー耐久要件が自国の法規に取り込まれています。

  • 欧州
    2026年11月29日より開始されるEuro7において、バッテリー耐久規制が導入されます。
  • 北米
    EPA:MY2027より、SOCEに対するバッテリー耐久規制が導入されます。
  • 日本
    2024年10月よりSOCE、SOCRの出力が義務化されます。

 

また、重量車のバッテリー耐久要件についてもWP.29-GRPE-EVEにて試験法の策定が行われています。

HORIBAの評価ソリューション

HORIBAは、UBEの算出に必要なBEVのWLTP試験において、長時間試験による身体負荷の低減、演算自動化による工数削減、充電結果の入力ミスを防止できるソリューションで、航続距離・電費試験の自動化・効率化を実現します。また、PHEVについても同様に自動化・効率化を実現するソリューションを提供します。
さらにEV試験において、走行時の電力消費量から自動でCSSM走行時間を演算することで、事前試験をせずに短縮試験を実施できる機能も提供しています。

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